2020/10/17

行動

 7時起床。朝から夜までバイト。イベント明けなのでだいぶ気楽。

 夜はウィスキーを買って帰る。今日はティーチャーズにしてみた。

 

読書

「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン(上)」暁佳奈、KAエスマ文庫

 ようやく上下とも手に入ったので読む。TVシリーズは見ていないが、劇場版のパンフレットで大体の流れは把握済み。したがって巻頭のあらすじから何となくイメージはつけられた。

 読むのに体力を要する本だった。

 情景の描写がとても細かくねっとりとしており、脳内イメージが鮮明に出来る。西欧風の背景世界や、近世めいた文化の表現には魅力を感じた。特に天文都市の描写は面白く、是非映像でも見てみたい所。感情の描写も豊富で、溢れ出るようなシーンでは勢いが余すことなく描かれていた。特徴的なのがヴァイオレットについての描写で、外見・印象共に様々な人から執拗なまでに言及されている。それ故にヴァイオレットの異質な冷静さが際立つし、感情が動いたシーンは稀少に見える。視点の都合もあってヴァイオレットを眺める側に感情移入することが多く、池を跳ねる所や、星を見て喜んでいる所は強く印象に残っている。そのような場面では行間に緩急をつける表現が多用され、やや芝居がかってくどく感じる部分もあるが、溢れるような感情表現に一役買っていたと思う。割と定跡に沿っていてかつ既知の話であっても、ヴァイオレットの描写が絡むと不思議な体験のように思えてくるから妙なものである。

 前半まではこのように感じつつ読み進めていた。時折心が詰まるような描写があり(アンとか小説家の娘さんとか)、目を離して一息つくことはあったものの、静かに読み進めることが出来ていた。しかし、エイダン君の話から風向きが変わり始める。戦争に纏わる後半の話でも、前半の緻密な描写がそのまま保たれていた。郊外の別荘地は死体が並ぶ戦地に変わり、死者への哀悼は死への恐怖に変わり、それが軽減されずねっとりと描かれるのだから大変しんどい。嫌でも想像させられる。特にエイダン君が逃げ回るときは迫真の描写で、無秩序な恐怖が容赦なく描かれている。筆の乗り方が凄い。そんな状況下でもヴァイオレットの描写は変わらず美しく、いっそ不気味に思えてくる。エイダン君の話は一番好きな流れだった。ベタではあるけれど、死にたくないともがきつつ、死に際に諦めからくる優しさを得る様子はたまらなく悲しくて好きである。ユリスもそうだった。遺体を故郷に持ち帰る様子は前に比べればあっけないほど簡潔な描写で、それが尚更悲しくさせる。

 最終章ではヴァイオレットの前半生が描かれており、覚悟はしていたがまあ血みどろのドロドロであった。戦争で生じる諸々の悪事についても割と容赦なく描かれていた。入場者小冊子で大佐がやっていたえげつない戦術もその一端だったのだろう。あのifでは大佐が情を持ったがために多少良い未来に進んでいたが、こちらは道具として少佐の下に渡っており、苛烈極まる道筋を進んでいる。少佐も少佐で有能な上に善人の人格者という軍人に不適すぎる性格をしている方だった。事あるごとに良心が痛めつけられている。それでも規律を保って的確な作戦行動を行う有能さが余計悩ましい。戦場の悲惨さが強く出ている分、劇場版であれだけ罪悪感に悩んでいたことへの理解が進んだ。ヴァイオレットがどれだけ人外じみた活躍をしても人間として接することが出来るのは人格の強靭さを感じる。己の道筋に頑固過ぎて難儀している様子はもどかしい。考えれば考える程教師向きな性格である気がしてくる。

 エイダン君の時も出てきたが、ヴァイオレットの戦闘描写はファンタジーを感じるほどに華麗かつ過激で、やられた側の状況まで丁寧に描写してくれている。流石に映像化の際はマイルドになっていると思いたい。極めつけは最後に両腕が落ちる所であり、肉が抉れて筋が切れていく様子が6ページにわたって描写されている。この直前時点で初めて描写がバイオレット視点になっており、なおのこと痛ましい。しかし目の前で少佐が窮地にあれば、当然それくらいするんだろうな、と納得させる凄みがここまでの話にはあった。

 全体的に視点が他人な分、「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンの伝説」というものを他人から伝え聞いているような流れであった。しかし描写が濃いお陰で読書感は当事者のそれに近い。ヴァイオレットに感心したりままならぬことに悶えたりしながら読み進められた。劇場版とは違い、少佐の最後の行動がつかめた状況にあって、下巻でどう展開するか楽しみである。

 アニメ版との差異も気になる所。残酷描写が減っているのは仕方なさそう。少佐の行動も分岐していた。特に気になるのは、パンフレットのあらすじでは「ヴァイオレットが過去の殺しを悔いている」という点が複数の回で強調されていたものの、上巻時点ではそのような言動が(直接的には)見られなかった所である。死刑囚の所で罪の認識はあるように見えたが、悩んでいるようには思えなかった。下巻で色々なことを知って罪の意識も覚えるのだろうか。小説版のこの描写で来られたら精神が持たなさそう...

 本編とは関係ないが、後書きまで鬼気迫っていてちょっと心配になる。