九月一日-諏訪

出発

 18きっぷを見つけたので支度。着替えとバッテリー、念のため登山靴も入れ、出発。

 途中スーパーに寄りつつ、つらつら歩いて駅へ向かい、始発に乗り込む。

 この日の始発は人が多かった。新宿駅から朝帰る方々が乗ってくるのはまあ分かるが、八王子で大混雑になったことは意外。何とか座れて命拾いした。

 車内には学生、登山っぽい人、若者グループなど様々である。学生は坊主頭で、いかにもスポーツマンといった風貌であった。水タンクも持ち運んでいる。調べると都内の高校だったが、グラウンドは山梨にあったりするのだろうか。バンドのグッズを身に付けている集団もいた。フェスなどあるのかもしれない。

 しばらくして、大月で一気に人が降りる。ここでバンドの彼らが富士Qに向かっていたことを知る。調べると、どうやら何らかのライブもやっていたらしい。納得。

 

 人の少なくなった車内で寝ながら西へ進む。徹夜だったのでよく寝られる。

 寝落ちを挟みながらも、やるべき作業はまだ残っていた。なにせ予定を何も決めていないので、多少は計画を立てなければならない。18きっぷを買った時は白州工場の見学を画策していたが、前日までの予約制である以上今回は難しい。かといって諏訪に直行するのも勿体ない気がする。唸りながら地図を眺め、目的地を探す。

 

 武田神社、県立美術館、いっそ小海線方面、など色々考えているうちに、日野春近くの神代桜が目に入った。調べると相当有名な桜らしい。日本三大桜、と聞いてしまっては気になって仕方がない。

 しかし、立地に問題があった。駅から歩いて一時間強かかるのである。丁度いいバスもない。歩くことは大歓迎だが、電車のダイヤがどうも難しい。一時間に一本という過疎具合、逃した場合のロスタイムは馬鹿にならず、行って帰ってもギリギリ...と悩んでいたところで日野春駅に着き、取り敢えず降りた。

 降車時刻は0836。二本後の電車は1041発。まあ間に合うだろうと根拠のない見切りをつけ、桜の方へ向かう。

 

神代桜

 日野春駅のすぐ裏は崖であった。ぐねぐねとした車道を辿って降りていく。途中「武川町牧原方面(山高神代桜) 近道」の看板と細いけもの道を見つけ、少し進んだ。しかし道は険しく、人の通った気配がまるでない。遭難を避けるために一時撤退、元の車道を進んだ。看板に併記された「野猿返し」の名は伊達でない。

 

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 しばらくすると国道に差し掛かり、大きな川と、橋を挟んで対岸の武川町が見えてくる。釜無川というそうだ。上流側はデルタ地帯になっていて、大武川が合流している。町名の由来もここだろうか。

 

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 地図を見ると、デルタの先は復興記念公園になっていた。増水・氾濫したことがあるらしい。伊勢湾台風(15号)と同年の昭和36年台風7号による被害だそうだ。100を越す家々が土石流に呑まれたそうで、山間部の厳しさが偲ばれる。

 

 橋を渡ると町である。時間の余裕もなく、やや小走りで抜けていく。とはいえ運動不足の身、更にリュックを背負っている状態とあっては体力が中々持たない。奇怪なフォームで息を切らしながら歪んだインターバル走をする様子は、ただでさえ信用ならない風貌を不審者レベルまで引き上げていたが、背に腹は代えられない。犬という犬に吠えられながら突き進んだ。

 道中、小学校の校庭に人が集まっていた。防災の日ということで、訓練をやっていたらしい。町中を消防車が走り回っていたり、消防団の方々が見回っていたりとかなり熱心な様子だった。

 校庭のテントでは点呼が行われていた。町中総出で集まっているのだろうか。地元のそれとはだいぶ異なった形式である。

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 もう稲が実っていた。天気が良いので気分も良い。

 

 町を抜けても道は続く。武川町は山と川に挟まれており、神代桜のある実相寺はその山側にあった。つまりまた登りである。やや後悔しはじめる。

 

 「平成1x年 ○○運動によって設置」と書かれた看板の下に、点字ブロックらしきものがある。すっかり落ち葉に埋もれていた。よっぽど人が通らないのだろう。落ち葉が滑ってやや歩きにくく、仕方ないので車道を歩いた。

 

 9時30分頃になって、ようやく実相寺に辿り着いた。桜の案内もある。境内はかなり広く、参道の脇に畑まである。境内には各地から分けられた桜が沢山植わっている。日蓮宗の寺らしく、身延山の枝垂れ桜もあった。そういえば身延山も山梨である。

 本堂の近くには「お参りしてから神代桜に」という趣旨の看板がややしつこいほどに置かれている。キッチリお参りし、神代桜へ。

 

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 神代桜

 推定樹齢1800~2000年のエドヒガンザクラであり、ヤマトタケルによって植えられたという伝説を持つ、日本最古ともいわれる三大桜の一つである。

 想像以上に個性的な形をしている。樹木保護のため間近には行けないが、幹からは想像できないほど枝が伸び狂い、柵の外でもド迫力。苔の生えた樹皮や、所々折れた幹は否応にも歴史を感じさせる。それでいて今もなお新芽が伸びているそうだ。

 生命力が暴れ回っているような風貌であるが、これでも一時は相当に弱っていたらしい。環境の改善もあり、回復したとはいえ、今でも上部にやや隙間が残る。年々回復傾向にあるそうなので、また来てみたいものである。出来れば桜の時期に来たい。

 

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 境内には宇宙桜もある。比較的素直な枝ぶり。

 

 しばらく見たり見なかったりしているともう9時40分である。電車の発時間まで後50分、しかしGoogle先生曰く所要時間は70分、流石に焦りが出てくる。

 町への下り坂を死に物狂いで駆け下りた。坂下り中はややハイになり、息を切らしながら歌っていた。余計に体力を消耗した気もする。

 途中小学校を見るとまだ防災訓練中で、助けを呼ぶ役と消火器を動かす役に分かれていた。帰路でまた犬に吠えられつつ、橋を渡って町を後にする。

 問題はここから先の道である。行きに25分も下ったのだから、帰りはそれ以上の登りとなる。ここで残り時間は30分。最早あきらめかけたその時、行きに見かけた近道看板の下側版が目に入る。日野春駅への近道とキッチリ書かれていた。悪路ぶりを知っているとはいえ、この他に手はなく、南無三と叫んで突っ込んだ。

 山道は険しく、息を切らして登る。蜘蛛の巣がひっきりなしに引っ付いてくる。地図を見るとかなり直進に近いルートで、時間短縮への希望を胸に何とか進んでいった。

 10分ほどで、先に見かけた看板地点までたどり着いた。ここから駅までは5分と経たずに着く。助かったのだ。看板が救世主に見えた。

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ありがたや


 発車の15分前には駅に着くことが出来た。1Lのお茶はとうに飲み切っており、喉はカラカラ、たまらず自販機でMATCHを買って一気飲み。駅舎に冷房は効いておらず、汗だくのまま待つ。近くにオオムラサキの生息域があるらしく、隣駅まで自然公園を兼ねた散歩道になっている、という案内が置いてあった。気になるが、今回は時間も体力も余っていないのでパス。

 旅行初日の午前にして既に全体力を消耗してしまった。坂を下りている時に突いたのか、足の中指がジンジンと痛む。シャトルランを終えたかのような疲労感がある。まだ諏訪にも着いていないのだが。地図だけでなく地形もちゃんと見るべきという教訓を得た。ついでの問題として、地図を見っ放しだったのでスマホの電池がかなり減っている。早速モバイルバッテリーを召喚する。

 

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 じきに電車が来たので乗り込む。車内検札で出てくるのはほとんど皆18きっぷであり、謎の連帯感があった。いつもの山間を進み、一時間ほどで上諏訪駅に到着。

 

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御柱構造物@線路脇の公園


 

上諏訪

 まずは腹ごしらえとして、友人に勧められた蕎麦屋へ向かう。店名を「そばごころ 小坂」という。時刻は1135、11時半開店なのでちょうどいい。それでも店はほぼ満員であり、後から来た人は入店を断られていた。

 メニューを見ると蕎麦が三種類に分かれている。店の方曰く、風味の強い田舎蕎麦、滑らかな白そばの八ヶ岳蕎麦(二八蕎麦)、そして十割蕎麦とのことだ。天せいろも気になるが、貧乏性を発揮して八ヶ岳蕎麦の冷やしたぬきそばを注文。満員故時間がかかると申し訳ないほどに再三念押しされた。大丈夫ですと答え、初心者登山ガイドを読んで待つ。

 霧ケ峰行きを考えているうちに蕎麦が来た。

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 たぬき蕎麦とみて天かす入りを想像していたが、意外としっかりした天ぷらが乗っていて驚いた。食べて見ると、これがまた非常に美味しい。特にオクラの天ぷらは絶品で、中の粘りとサックサクの衣が奇跡じみた相性を見せている。ここでオクラの可能性を知ることになるとは思わなかった。まあ衣が美味しいので他も全部美味しい。茄子の天ぷらは当たり前のように美味しい。舞茸も舞茸らしからぬしっかりとした身がジワリと染みる。つゆにつけると異次元の美味しさ。

 天ぷら屋に来たかのような興奮を味わっていたが、本領である蕎麦も絶品である。説明を頂いた通り、口に入ればスルスルと抜けるのど越しの良い麺、しかし味はしっかりと存在し、口内を通るたびに蕎麦が香る。コシもばっちり。食べやすいのに蕎麦の味がするという無茶が成り立っていることに驚く。つゆは安心感のある鰹出汁で、蕎麦の味を妨げない。蕎麦湯を加えて完飲。

 蕎麦でここまで感動した記憶はほとんどない。友人には本当にいい所を教えて貰った。ありがたや。次は十割蕎麦も頼んでみたいものである。メニューにはおつまみが豊富に並んでいたし、飲んでみるのも良さそうだ。

 

 腹を満たしたのなら、次に行うべきは飲酒である。上諏訪の蔵の方面へ向かった。

 途中郵便局へ寄っていると、隣に参道が続いていることに気が付いた。どうやらこの先に手長神社があるらしい。一度参拝したことはあったが、夕方であったため、暗い中でしか見られなかった所である。良い機会と考え参拝に向かった。

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 長い階段を登っていくと諏訪中学校の前に出る。さらに進んで手水場、登って本殿となる。本殿が見えてくるころになると祝詞が聞こえてきた。一日の月次祭が執り行われていたのである。邪魔になってはまずいと思い手前で待機していたところ、進行役の方に手招きして頂き、しばし様子を拝見することが出来た。祭事の終了後にはお話まで伺わせて頂けた。その辺の旅行者にまで手間を掛けてくださり、まことに有難い。

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降り側

 境内摂社の弥栄神社が旧本殿であったこと、現本殿の彫刻は立川流の職人が行った豪華なものであること、昇り龍と降り龍の彫刻が対応していることなどを伺った。由緒や神様の系譜について掲示が賽銭箱脇にあったりと、つくづく親切である。

 周辺の鎮守の社としての役割を担っていたり、近くの城に関連があったりと、付帯する信仰の歴史が様々にある。裏に古墳もあるらしい。諏訪はやはり諏訪大社の存在が大きいし、この神社も祭神に記紀の神様を迎えているのだが、古墳があるくらいだから元々住んでいる集団やその信仰もあったのだろう。調べているがあまり確固とした理解を得られていない。

 諏訪の神社は色々な視点の資料が入り交じっており、諏訪大社に関連する社もあれば、そうでもない社や、後からそうなった社もあり、複雑である。ハマる人が多かったり、トンデモ論が出てくるのも納得である。もっと勉強する必要がある。

 

 参拝後は階段を降り、元の通りへ戻る。途中、遠くに諏訪湖が見えた。

 

 酒蔵への道は中山道に近かったこともあり、古い建物が多く残っている。適当に目を向けた建物の壁に「登録有形文化財」とあって心底驚いた。

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 いわゆる「看板建築」の建物が多く残っているそうだ。この建物もそれであるとか。

 調べると、この「看板建築」という言葉を生み出したのは、お隣茅野市出身の藤森照信氏であるらしい。妙に縁がある。

 

 建物群を流し見しつつ、本町通りを直進すると、いよいよ酒蔵が見えてくる。まずは舞姫酒造。熟成された秋出しのお酒が美味しい。飲み比べた末に山田錦の純吟(300ml)を買って出た。

 

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「ご自由にお試しください」


 続いて麗人酒造。豪快な試飲に定評がある。片っ端から飲み比べ、至福のひと時を味わった。ここは生酒が美味しい。外にある仕込み水も美味しかった。迷った末、純米生酒(300ml)と濁り酒(300ml)を買って出た。

 時間も迫っていたので、最後は伊東酒造へ。長居は出来なかったが、キレの良い辛口の酒を飲み、買って出た(300ml)。

 今回は本金酒造と宮坂酒造には行けなかった。次回はそこへ。岡谷の方になるが、神渡の蔵にも行ってみたい。飲み歩きチケットは二人以上の時でないと歯止めが効かなさそうだ。

 幾つかの酒蔵には美術館や資料館が附設されている。やはり造り酒屋は昔から裕福なのだろう。

 

 怪しい足取りで駅へ戻り、足湯で電車を待つ。中指に効いた。

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御柱構造物@上諏訪駅足湯

 

上社参拝

 一駅移動し、茅野へ。いつもの通り上社前宮へ向かう。道中で達矢酢蔵神社へ参拝。

 地図無しで歩いたると息巻いていたところ、案の定迷ったので地図を見て復帰する。

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情報量が多い

 

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御柱構造物@宮川脇の公園

 

 宮川を渡り、ドンキを過ぎて左へ曲がり、いつもの道に沿って上社前宮へ。

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 手水場横の史跡案内図を見る度に、回ってみたいと思う。そして断念する。七石七木を少しずつ見て回るのが限界である。いずれ自転車や自動車を用意してガッツリ動き回りたい。

 

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 休日ということもあり、本殿周辺は混雑していた。三脚を構える人もちらほら。

 鎌倉街道(迂回路じゃない方)に向かっていく人もいた。止めるべきだったかもしれない。
 

 

 参拝後は神長官守矢資料館へ。裏の御射宮司社と神長官の墓へお参りした。そのまま抜けて空飛ぶ泥船を横目に見つつ、本宮方面へ進む。

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中に上がれるらしい

 北斗神社への登拝は断念し、下から拝んだ。今日はもう登りたくない。

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何故こんなにおどろおどろしいフォントを...



 道路の角の道祖神。反射板の柱が4つでおさまりが良い。

 

 

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 諏訪大社上社本宮。こちらも人が多い。

 

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 本殿に参拝後、今年の分のお守りを頂き、おみくじを引く。有難いことに大吉であった。序文・学問双方で「心を正せ」と戒められる辺りはやや心当たりがあるので注意したい。

 時間の余裕があったので、長らく未踏の地であった宝物殿の拝観券も買う。期限なしと聞いたので、下社との共通拝観券にした。

 やはり人気があるのだろうか、武田氏関連の物が多い。一度負けて酷い目に遭ったこともしっかりと書かれている。後は奉納されたものがメイン。神長官守矢資料館にあった書状類はあまり無かった。下社とドンパチしてたこととか書いてないかな、とやや期待していたが、流石に無かった。

 

 土俵が準備されていた。何か行われるらしい。

 

 帰り際に古い御守りを奉納。そのまま博物館方面へ向かった。家へのお土産を吟味する。歯の悪い相手に送るものを色々悩んでいたが、味噌類しか見当たらず断念。取り敢えず、前回買って美味しかった「食べる出汁」のピリ辛版を購入。

 近くにあったベンチに座り、お土産について家へ電話する。さて何がいいかと相談しているうちにバスが来た。急いで駆け寄り、すわっこランドに停まることを確認した上で乗り込んだ。

 

 乗ったバスはすわひめ仕様のマイクロバス。乗客は自分一人であった。着くまでの間、今夜の予定を考えていく。

 本来は泊まりたいゲストハウスがあったのだが、残念ながらドミトリーは埋まっていた。となると塩尻健康ランドかネカフェの二択となる。18きっぷもあるし、健康を考えれば当然前者に軍配が上がるだろう。タオルを忘れているという点も健康ランドを後押しする。しかし下諏訪の朝風呂という単語はあまりにも魅力的である。結局健康を投げ捨て、ネカフェを選んだ。報いは後で受ければよい。

 そうなると時間の消費が問題になってくる。料金に直結するし、ネカフェの滞在時間は短く抑えたい。すわっこランド→飯→ネカフェでは若干早すぎる。逡巡の末、諏訪湖畔を延々と歩くことにした。

 そうと決まれば、とスタート地点を考えているうちに、このバスがガラスの里にも停まることを知る。しかも到着時刻は閉館1時間前である。丁度いいと見込んで近くで降りた。

 

諏訪湖

 すわひめのアナウンスを受けつつ降車すると、目の前には諏訪湖があった。傾きかけた陽が射し、ぼんやりと光っている。

 一旦諏訪湖と別れ、背後のSUWAガラスの里を訪問。入館料を払って博物館へ。

 

 一つの展示室に、ガラス作品が所狭しと展示されている。

 

 

 ここがガラスの里でなければ、ガラスであることを疑っていただろう。作られたものであるということすら信じがたい。素材としてのガラスの可能性を存分に思い知らされる。

 

 

 海外作家の物も含め、多種多様な作品が展示されていた。どれもガラスでなければならない意味を持っている。

 

 目玉は巨大水晶球である。周りのものと比べれば、ただただデカくて瑕疵がないというだけの玉ではある。しかしそのデカさに圧倒される。見えているのは向こう側の景色なのだろうか。

 看板を見る限り、貴重であるらしい。レンズとしても無二の用途を持つそうだ。焦点距離凄そう。

 

 館長は岩波太佐衛門尚宏氏という方である。中々に威圧感のあるお名前で印象深い。調べて見ると、下諏訪宿の本陣岩波家第二十八代御当主であられるそうだ。本陣も歴史ある和風建築で、一昨年の秋に訪れ、じっくり休ませていただいた。大変お世話になっております。

 観覧後はミュージアムショップなどを見て回った。大小さまざまなガラス細工が並んでいる。お値段も様々で、上は7桁まであった。地下には別のショップもあり、諏訪のお土産の他、コップなどの実用品も多く並んでいた。時間のある時にゆるりと見たい。

 地元の工業品を集めたショップもある。精密工業に定評のある諏訪らしく、精巧な技術で作られたコマ、スピーカー、双眼鏡、ギターなどが並んでいた。今度来た時は双眼鏡を買おうと思う。

 

 閉館したので再び諏訪湖畔へ。夕日を反射して輝いている。春に来た時と比べ藻が多く、水面を覆っていた。露わになった水面は、風のない時には鏡のように空や山を映している。もう一つ諏訪の町並みが存在しているかのような、不思議な眺めである。無風で鏡面になるのが湖の長所の一つだと思う。

 

 釣り人をちょくちょく見かける。今の時期は何が釣れるのだろう。

 

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孤立している謎の船

 歩いているうちに日が傾いてきた。対岸の明かりがよく見える。気分が乗ったので、先ほど買った麗人の生酒を開封。つぶグミをつまみにしながら飲み歩いた。

 はじめは下諏訪まで歩き通すつもりだったが、足からの苦情を受けて断念。上諏訪駅へ向かう。夜の静けさにやや不安になりつつも駅に着き、足湯へ入って電車を待った。

 

 

下諏訪

 下諏訪で降り、まずは夕飯。独特の味に定評があるハルピンラーメンへ向かう。

 

 メニューを見ると、「ハル二郎」なるものが存在しており驚く。迷わず注文。

 

 ハル二郎ニンニクマシアブラ。野菜が増せない為、本家にはややボリュームで劣るものの、沸き立つ匂いは紛れも無く二郎のそれである。麺はやや細いが、食べ応えがある。

 しかしながら、スープの味は完全にハルピンラーメンのものだ。ハーブとも甘草とも評しがたい謎の風味は健在ながら、大量の脂と意外なほどにマッチする。ジャンクはジャンクと相性がいいらしい。二郎特有のかったるさをハルピンスープが緩和し、健康に悪いと分かっていながらもゴクゴク飲めてしまう。底に沈んだ大量のニンニクが更に背徳感を煽る。何らかの臓器に効きそうなパンチ力がある。

 二郎は薬でも入ってるんじゃないかと揶揄されるが、これは明らかに入っている味である。いずれガンにも効くようになる。

 夢中で食っていると、店内のラジオから若者のすべてが流れた。夏の終わりの一人旅の夕食、と見れば最高に情緒がある。しかし食べているものがものなので微妙な雰囲気。惜しい。

 

 至高の満腹感を抱え、30分ほど歩いて銭湯へ向かった。

 この日の風呂には児湯を選んだ。明日の朝風呂のことも考え、タオルがついてくる三湯めぐりセットを購入。二日間有効なところが有難い。早速貰ったタオルを掲げ、風呂へ入る。

 児湯は三湯の中では最もバリエーション豊かだ。普通の風呂にぬるめの打たせ湯と露天風呂まである。人も少なく、じっくり吟味しながら入ることが出来た。

 普通の風呂は下諏訪らしい熱めの湯であり、芯まで暖まる。耐えきれなくなったころに露天風呂へ。ぬるい外気でゆったり入れる。その後打たせ湯、とうろつきながら堪能した。寝不足もあり、打たせ湯では少し居眠りしてしまった。その時は人がいなかったのでまだマシだが、気を付けたい。

 

 上がってからは珈琲牛乳を飲む。相変わらず美味しい。自分にとって、この八ヶ岳高原牛乳が諏訪の一番の楽しみである。

 

 少し休んでからネカフェへ。夏のぬるい夜ではあるが、東京のそれより余程涼しくて有難い。体を冷ましつつ歩く。

 途中下社秋宮の前を通る。参拝は明日として、一礼して過ぎた。ふと秋宮前の自販機を見ると、アンバサが並んでいた。あまり見ないので興奮して購入。風呂上がりにはちょうどいい。

 空を見ると星が多く並んでいる。一日中曇りだったが、夜になって晴れたらしい。夏の大三角を捏造しながら少し見上げていた。

 

 20分ほど歩いてネカフェに着いた。時刻は10時前、6時間コースだと早すぎるくらいであったが、疲れも溜まっていたので早めに着弾。200円課金して9時間コースにすることを選んだ。

 寝る前に少し翌日の予定を立てた。霧ヶ峰高原と旧御射山に興味があり、バスなど調べていたが、丁度いいダイヤが見つからない。前週で夏期運行が終わっていたようだ。バス停から40分歩けば登山地点まで行けるが、それだと面倒である。早めに出れば行けなくもないことを確認し、判断を翌日に投げて寝た。