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続いて向かったのは出町柳だった。目的は二つ。出町ふたばの豆餅と京大の学園祭である。
駅を降りてすぐに出町ふたばへと歩いた。流石の人気店、店先には長蛇の列が折り重なり、ショーケースはほとんど空である。そこそこの待ち時間であったが、吊られて並ぶ黄色い商品札を眺めるだけでも飽きない。とりわけ秋限定の芋豆餅は燦然と輝いて見えた。
およそ10分後、ようやくレジが見えたその時、完売の通知があった。それも豆餅だけではない。商品すべてが売り切れていた。わずか三人前での終了だった。天国から地獄である。
無いものはどうしようもない。赤信号で法律違反ダッシュしておくべきだった、などと考えつつ列を離れ、百万遍方向へ向かう。
そして向かっている途中に、学祭の企画終了時間に気が付く。この日は最終日であり、終了時間は他より早まって17時だった(はず)。すなわち、残された時間は30分ちょっとである。
30分与えられた所で模擬店の値下げ品を買い漁るのが関の山だろう。会期の1%も参加していない身でフィナーレに並ぶのも気が引ける。無念ながら学園祭を断念した。
結局二兎を追って両方逃がす結果となった。出町ふたばを諦めていれば学園祭に行けただろう。そもそも永観堂で紅葉に呆けていなければ二兎だって取れたはずである。鴨川に飛び込んで然るべき失態だ。
すんでの所で思いとどまり、浮いた1時間の予定を練りながら地図を眺める。ここで目に入ったのが一乗寺駅、その近くにある黄色いラーメン屋である。
思い立ってすぐに叡電に乗り、一乗寺駅へ向かう。駅から歩いて1分足らず、初見だが見慣れた看板がある。少し並んで食券を買い、席についてしばらく経った後に注文を行う。すぐに期待していたものが出てきた。
京都二郎である。固有トッピングの京都レッドを投入し、豚ヤサイマシニンニク少なめとした。
この二郎は豚が非常に美味かった。ゴロリとしながらも繊維と脂身のバランスが丁度いい豚であり、そのうまみを十分に味わえる。汁にも豚の味が十二分に染み込んでいる。甘く柔らかめに茹でられたヤサイ、二郎らしい太麺といい、とても美味しい王道二郎だった。朝昼抜きの空腹補正もあるかもしれないが、他と比べても引けを取らない良い二郎だったと思う。
並び途中に友人とバッタリ会い、心底驚いた。ジロリアンは引かれ合う......
夜行バスで帰宅する予定であり、時間はずいぶん余っていた。最終目的地の前に、少し寄り道して三条へと向かった。
圧倒的な卍密度。目的地もこの中にある。
・矢田地蔵尊
奈良の矢田寺を大本とする地蔵寺である。本尊の前には送り鐘がぶら下がっており、これを撞くことで祖霊を冥界に送る風習がある。
中は橙の明かりに照らされ、寺らしからぬ暖かな雰囲気だった。広くはない室内に所せましと屋号入りの提灯が並んでおり、地域に根付いた信仰が感じられる。
送り鐘の下には地蔵守りやおみくじが並んでいる。一つ一つが手作りの慈悲を湛えたお顔をしていた。しかしその笑顔がずらりと並ぶ光景は少し怖い。
三条を少し歩いた後はバスに乗り、南へと向かった。しばらく揺られ、線路をくぐった後に見えてきたのはかの有名な五重塔である。
・東寺
言わずと知れた東寺真言宗の総本山。立地が最高であり、五重塔も最高である。
紅葉の時期にはライトアップが行われており、数多の観光客が押し寄せる。この年はJR東海が東寺で(しかもライトアップ版の)広告を打ったこともあり、写真スポットには黒山の人だかりが出来ている。勿論、自分もその一員である。
池に映った五重塔。紅葉と池の反射は何故ここまで相性がいいのか。逆さ五重塔には不思議な感覚にさせられる。
紅葉を眺めながら境内をぶらぶら歩く。瑠璃光院や宝厳院のライトアップに比べると派手さは無く、紅葉本来の色合いが活かされていた。たんまり堪能した後は本堂と金堂に向かい、手を合わせる。密教特有の整然とした立体曼荼羅はどこを見ても感心させられる。
東寺を後にして再びバスに乗る。この時のバスは今まで乗った中でも群を抜いて運転が荒かった。流石は京都市バスである。
夜行バスまではまだ二時間ほど余っていた。銭湯に向かい、お湯につかって時間を潰す。京都の銭湯はサウナがあるのが有難い。
時間が来たので風呂を出る。ここの銭湯は脱衣場と風呂が別の階にあるため、濡れた裸体で階段を降りることとなった。急いで着替えて外に出た後、再び線路をくぐって八条口側へ向かう。
しばらく待つと夜行バスがやって来た。遠くに見える京都タワーを惜しみつつ、この旅行を終えた。また来る。